『都市芸研』第九輯/2010年度夏期現地調査の概要

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「近現代中国における伝統芸能の変容と地域社会」
2010年度夏期現地調査の概要

氷上 正・太田 出・佐藤 仁史・千田 大介・戸部 健・二階堂 善弘・平林 宣和・山下 一夫

はじめに

中国都市芸能研究会では、2010年度より新たに科学研究費補助金(基盤研究(B))「近現代中国における伝統芸能の変容と地域社会」(研究課題番号:22320070、研究代表者:氷上正)を取得し、江南地方および東北地方・北京の皮影戯などの伝統芸能を対象とする、新たなプロジェクトを立ち上げた。4年間の期間中に、数次の現地調査を実施し、演劇学・文学・史学・宗教学などに跨る分野横断的な研究を展開する計画である。

研究初年度である2010年は、8月から9月にかけて、今後の研究の展開を視野に、現地の研究者・芸能関係者や関連機関との関係構築、および研究のフィージビリティ調査を主たる目的とする現地調査を実施した。現地調査を行ったのは、氷上・太田・千田・山下・佐藤・戸部の6名である。

調査は三班に分かれて実施した。太田・佐藤は、安徽省宣城市において皖南皮影戯の予備調査を実施した。千田・山下は、太田・佐藤とともに皖南皮影戯の調査を実施した後、北京で氷上と合流し、北京市・遼寧省凌原市・黒竜江省哈爾浜市において皮影戯および曲芸の調査を実施した。また戸部は、天津市・河北省石家荘市において文献調査を行った。

以下、調査の日程と概要について、備忘を兼ねてまとめておく。

日程と概要

8/21千田・山下成田空港より上海経由で江蘇省呉江に移動。
太田・佐藤・千田・山下江蘇省呉江にて合流。安徽省宣城市に移動。
8/22午前:車にて安徽省宣城市宣州区水東鎮に移動。水東古鎮(三官殿・水東教会)を見学、皖南皮影博物館に皮影芸人の何沢華氏を訪問。
午後:宣州区陳村で皮影芸人の陳景華氏へのインタビュー。その後宣州区沈村で皮影芸人の柯玉英氏へのインタビュー。
8/23午前:車にて安徽省宣城市宣州区水東鎮に移動。皖南皮影博物館に皮影芸人の何沢華氏を訪問。宣州区陳村に移動し、再び陳景華氏へのインタビュー。
午後:宣城市内にて、再び柯玉英氏へのインタビュー。
8/24午前:車で杭州へ移動。
千田・山下午後:列車で上海へ移動。
太田・佐藤本研究の調査を終了。
8/25千田・山下午前:空路北京へ移動。
氷上午後:成田空港より北京へ移動。
8/26氷上・千田・山下終日:北京市内にて資料収集。
8/27午前:北京皮影劇団元団員・皮影芸人の劉季霖氏を訪問。
8/28・29終日:北京市内にて資料収集。
8/30午前:北京空港より遼寧省朝陽市へ移動。
午後:凌源皮影戯調査に向けた現地協力者・機関との連絡・折衝。
8/31午前:朝陽市内より車で凌源市へ。凌源市文化局を訪問。局長・聶斌成氏、副局長・張静宏氏、科長・尹站民氏、現地研究者・韓琢氏、凌源皮影芸人郭永山氏の長女・陳雲斌氏と面会。その後、市内の仮設戯台に朝陽市永興皮影団を訪問、団長・馬金武氏にインタビュー。
午後:凌雲寺見学。
※関帝廟であったのを、1980年代に仏寺に改めたもの。
夜:凌源皮影芸人郭永山の三男・郭乃学氏と面会後、朝陽市永興皮影団の『臥鳳山』上演を鑑賞。
9/1終日:北京経由で黒竜江省哈爾浜市へ移動。
※朝陽が濃霧でフライトキャンセルとなったため、急遽長距離バスで北京に移動、哈爾浜行き最終便に振り替えて搭乗した。
9/2午前:哈爾浜児童芸術劇院を訪問、皮影芸人の高淑芳氏に連絡をとるが、広州公演中で不在。
午後:久聞民間芸術工作室を訪問、皮影芸人の于久文氏へのインタビュー。
9/3山下空路、北京経由で帰国。
氷上・千田午前:哈爾浜児童芸術劇院を訪問。
氷上午後:二人転に関する資料収集。
千田午後:久聞民間芸術工作室を訪問。
9/4氷上・千田終日:空路、北京へ移動。
9/5・6氷上終日:北京市内にて曲芸関係資料収集。
千田終日:創新力博社にて、文献デジタル化打ち合わせ。
9/7氷上北京より空路帰国。
千田終日:北京市内にて演劇関係資料収集。
戸部終日:河北省檔案館にて文献資料調査、河北師範大学法政学院の張志永氏・霍宏偉氏訪問。
9/8千田終日:書同文社にて、文献デジタル化技術に関する取材。
戸部終日:河北省檔案館にて文献資料調査。市内にて古書資料収集。
9/9千田終日:劉季霖氏宅を訪問、聞き取り調査および博物資料購入手続き。
戸部午前:河北省檔案館にて文献資料調査。
午後:鉄道で天津へ移動。
9/10千田終日:北京市内にて文献資料収集。
戸部終日:天津市檔案館にて文献資料調査。
9/11千田北京より空路帰国。
戸部終日:天津市内にて文献資料収集。
9/12終日:鉄道で塘沽へ、元中学教師・馬慶珍氏と面会。
9/13午前:天津市檔案館にて文献資料調査。
午後:鉄道で北京へ移動。
9/14北京より空路帰国。
皖南皮影博物館
皖南皮影博物館の展示
水東教会
陳景華氏へのインタビュー
柯玉英氏へのインタビュー
朝陽空港
張静宏氏(中左)・韓琢氏(中右)
馬金武氏(中央)
凌雲寺
永興皮影団上演風景
永興皮影団仮設戯台
于久文氏作の影人
北京の広茗閣(80後相声の劇場)

おわりに

今回の予備調査を通じて、現地調査予定地域における皮影戯や曲芸の上演状況、老芸人の所在など概要を把握するとともに、現地調査の実施に欠かせない人脈を構築することができた。また、関連文献資料についても一定程度、蓄積することができた。こうして確立された基礎の上に、次年度以降、本格的な現地調査および研究を展開する計画である。

最後に、今回の現地調査では上述の現地の方々に大変お世話になった。その他、安徽省の現地調査にあたっては、寧波大学卒業生の李星毅氏と安徽師範大学学生の杜鵑氏に方言通訳および調査記録の作成補助をお願いしたが、誠実かつ勤勉な二人の働きぶりにより、順調に調査を進めることができた。また、東北皮影戯の調査にあたっては、各地の劇団・芸人への連絡・紹介などについて、元北京皮影劇団の劉季霖氏および元陝西省民間芸術劇院の楊飛氏にご尽力頂いた。以上、末筆ではあるが、記して感謝申し上げたい。

*本稿は日本学術振興会科学研究費補助金「近現代中国における伝統芸能の変容と地域社会(平成22年度、基盤研究(B)、課題番号:22320070、研究代表者:氷上正)による成果の一部である。