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西廂記』は董解元に始まる、というのは確固たる事実である。しかし『武林旧事』の雑劇の外題には『鴬鴬六幺』が見え、そうであるならば董解元よりも古いことになる。『録鬼簿』によれば、王実甫に『崔鴬鴬待月西廂記』があり、同時に睢景臣にも『鴬鴬牡丹記』がある。王実甫の作は四巻だけで、草橋店で鴬鴬を夢見るところまでで終わっており、その後は関漢卿が付け足したものである。詳細は『曲藻』および『南濠詩話』に見える。李日華は王実甫の北曲南曲にあらためた。いわゆる『南西廂』であり、現在、梨園で演じられるのはこれである。

王実甫は全て董解元に依ったが、ただ董解元が敵の山賊に書状を届ける者を法聡としているのを、王実甫は恵明に改めている。関漢卿の続編も董解元に依っている。ただ、董解元は張珙が法聡の謀によって鴬鴬をつれて杜太守のところに逃げるとしているのを、関漢卿の続編では杜大守が普救寺に来ることにしている。李日華南曲は、ただただ王実甫・関漢卿を踏襲するばかりである。この田夫は関漢卿の続編の非をあざけりそしるが、董解元の作を見たことがないのであろう。

査継佐は関漢卿の続編がよろしくないとして、重ねて『続西廂』四を作った。概ね董解元・関漢卿の作に沿っており、(張君瑞が)勅命で詩を賦す一段を増補しているが、その詩には『待月西廂』の句を用いている。また、夫人が紅娘を鄭恒にめあわせようとして、紅娘が承諾せずに首をくくってしまう。これらの話はいずれも蛇足であり、曲辞も泥臭く、関漢卿には遠く及ばない。

碧蕉軒主人作の『不了縁』四は、「別れてより容光は減ず」の詩にもとづいて作ったものである。崔鴬鴬は既に鄭恒に嫁いでおり、張君瑞は科挙に失敗して帰ってきてふたたび蕭寺に崔鴬鴬を訪ねるが、二度と会うことはできない。情感と曲辞とは悲痛であり、意境は凄絶、査氏の続編に遥かに勝っている。董解元・関漢卿以外の作品では、この異色作は欠かせない。

明代の作としては他に『続西廂昇仙記』があり、序では盱江韻客の作と称している。紅娘が悟りを開いて仏になったとし、また崔鴬鴬の(紅娘への)嫉妬を描く。(死んだ)鄭恒が冥府に(崔鴬鴬と張君瑞を)訴えると、鬼卒は崔鴬鴬をとらえるが、紅娘が救い出す。淫を懲らしめ善を勧めることを意図しているが、曲辞の趣は風雅であるとは言えない。

(千田)

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Last-modified: 2016-08-19 (金) 16:30:34 (1100d)