中文電脳/漢語大詞典v2 のバックアップ差分(No.1)


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*待望久しい新版『漢語大詞典』CD-ROM



中国で編纂された中国語(・漢文)大辞典『漢語大詞典』は、全十二巻に文言から現代中国語

に至る語彙を網羅的に収録しており、我が国の諸橋『大漢和』を凌ぐ漢語大辞典の決定版とし

て利用されている。



その『漢語大詞典』のデジタル化は、1990年代後半から進められており、1998年には香港商務

印書館から(開発は書同文)『漢語大詞典』CD-ROM 1.0版が発売された。しかし、資金面などの

問題から膨大な用例は収録されていなかったため専門研究のニーズにこたえることができず、

広く利用されるには至らなかった。



2003年、香港商務印書館より『漢語大詞典』CD-ROMの新バージョン「2.0」が発売された。

待望久しい全用例収録バージョンであるという。以下は、そのテストレポートである。



*インストール



**動作環境



筆者がテストしたのは、『漢語大詞典光盤繁体単機2.0版』(以下、2.0版)である。「単機:スタンドアロン」と

断るからには、旧1.0版と同様に、教育機関などを対象としたネットワーク版が提供されるので

あろう。



ソフトの説明によると、動作環境は、繁体中文版Windows 95/98/2000/XP、ハードディスクの

空き容量は40MB以上必要である。Windows 2000/XP他国語版の繁体字中国語モードでも、問題

なく動作する。



Windows 2000/XPでは、コントロールパネルの「地域と言語のオプション」(Win2000は「地域のオプション」)

でデフォルト動作言語を切り替えることで、日本語版のWindowsでも海外版のソフトを使うことができるようになって

いるのだがが、2.0版は「中国語(台湾)」に言語を切り替えてセットアップしようとしても

うまくいかない。日本語Windowsのスタートメニューフォルダの名称が、英語標記ではなくカタカナ

標記である、という、Windows3.1時代以来の亡霊が悪さをするのである。



しかし、幸いなことに、2.0版は以下の裏ワザを使うと、日本語版Windows 2000/XP上でも利用することができる。



-日本語モードのままで、2.0版をインストールする

--CD-ROMをセットすると、インストーラーが起動する

--ダイアログボックスやボタンは文字化けするが、デフォルトで選択されているボタンをクリックし続けさえすればよい



http://wagang.econ.hc.keio.ac.jp/pc/faq/hydcd2-1.gif



-インストールが完了したら、言語設定を中国語(台湾)に切り替えてWindowsを再起動、2.0版を起動する

--言語切り替えの具体的手順は、『電脳中国学Ⅱ』pp.298以下を参照

--Windows XPの場合は、「地域と言語のオプション」→「詳細設定」タブ→「Unicode対応でないプログラムの言語」

で設定



Windows 2000/XPの言語切り替えをしたことのある人にとっては、さほど難しくはあるまい。

しかし、上記の解説を読んでも意味がわからない、というのであれば、宝の持ち腐れになる危険性

が高いので、2.0版には手を出さない方が無難であろう。



**Windowsバージョンによる動作検証



筆者が実験した結果を一覧表にまとておく。



,Windows XP Pro 多国語版,○,中国語(台湾)モードで、インストール・運用とも問題なし

,Windows XP Pro 日本語版,○,日本語モードでインストール、中国語(台湾)モードで運用

,Windows 2000 Pro 日本語版,○,日本語モードでインストール、中国語(台湾)モードで運用

,Windows Me 日本語版,×,インストールできるが起動できない



Windows 95/98は、Windows Me と同様であると思われる。あるいは、中国語環境エミュ

レーターを利用すると使えるかもしれないが、試していない。



*試用感

**インターフェイス



2.0版を起動すると、以下のウインドウが表示される。



http://wagang.econ.hc.keio.ac.jp/pc/faq/v2-1.gif



左側が文字や語彙の検索カード、右側が閲覧ウインドウという設計である。



検索カードは、「字」見出し字検索、「詞」熟語検索、「成語」成語検索の三種に分かれる。



見出し字検索では、IMEによる入力、『漢語大詞典』の巻数・画数による検索が提供される。

熟語・成語検索では、「?」任意の一文字、「*」任意の文字列による、ワイルドカード検索

に対応しており、例えば「?然」では「自然」「天然」などを検索できるし、「*步*」で「步」

の字の使われた成語、「七步之才」「寸步不離」などを検索することができる。



また、見出し字・熟語検索でウインドウ左下の「検索方式」をクリックすると、発音検索(ピンイン、注音)、

部首・画数検索などのさまざまな漢字検索機能を利用できる。おもしろいのは、「專業查詢」の「古音」

検索機能で、反切・声調韻部・声類を入力して文字を検索することができる。



http://wagang.econ.hc.keio.ac.jp/pc/faq/v2-2.gif



たとえば、熟語検索で

「古音」の「声調韻部」を選択し、「東」を入力すると、以下の図のように、一東の漢字で始まる

熟語が一覧表示される。



http://wagang.econ.hc.keio.ac.jp/pc/faq/v2-3.gif



ただし、注意しなくてはならないのは、2.0版は台湾Big5コード対応ソフトであり、簡体字や

常用漢字の異体字一括検索テーブルはおろか、簡体字・常用漢字の入力(IMEによる入力、Ctrl+Vによるペースト)

にすら対応していない点である。このため、IMEからの入力検索では、微軟拼音・

微軟新注音などの中国語IMEで繁体字入力することになる。日本語IMEで繁体字(旧字体)を入力

してもいいが、「步」と「歩」、「説」と「說」のような所謂Unicodeのコードセパレート問題

が発生するので、注意が必要である。



検索した漢字・熟語の語釈や用例は、右の閲覧ウインドウに表示される。



http://wagang.econ.hc.keio.ac.jp/pc/faq/v2-4.gif



閲覧ウインドウで青く表示されている語句をクリックすると、その語句の語釈にジャンプできる。

また、任意の文字にカーソルをあわせて右クリックすると、その漢字の釈字にジャンプする。



ウインドウに表示された語釈・用例は、テキストデータとしてコピーすることができる。ただし、

クリップボードにはBig5テキストとして取り込まれるので、文字コードの切り替えや自動認識に

対応したソフトを使わなくてはならない。



筆者が中国語(台湾)モードのWindows XP 他国語版環境で実験した限りでは、Word 2002日本

語版、Word Pad、メモ帳、EmEditorなどでは文字化けしてうまく貼り込めなかったが、Becky!2.0の

メール作成画面には貼り付けられた。これらの機能を使いこなすには、一定のWindows多言語処理

スキルが必要となりそうである。



**収録漢字・語彙・用例



2.0版では、1.0版では収録されていなかった用例がはしっかりと収録されている。いくつかの

用例を紙版と付き合わせた限りでは、全ての用例が省略されることなく収録されていた。また、

紙版の語釈は簡体字であるが、2.0版では全て繁体字に書き換えられている。



しかし、見出し字や熟語に関しては、いささか変更されているようである。前述のように、2.0版は

Big5コードのソフトであり、簡体字や常用漢字などを扱うことはできない。このため、『漢語大詞典』

に収録されいてる見出し字のうち、2000余の簡体字、6000余の異体字などを収録していない。マニュアルには

見出し字の数、18013字と見えるが、これはおそらく意味・発音が分かれる漢字を二重にカウントしている

からであり、収録された字形の数はBig5コードのレパートリーを超えていない。



文字が足りないのだから、熟語の収録数も紙版よりも少ない。マニュアルによれば、紙版の37万余条に対して、

2.0版は336,385条の熟語、23,349条の成語を収録する。



このため、字句によっては、紙版を当たらなければならないことになる。CD-ROMは便利ではあるが、

完全に紙版に取って代わるまでには、まだまだ至っていないのである。



*おわりに



全体として、2.0版は、中国学の学術ユースにも対応できるだけの十分な内容と機能を備えていると

言えよう。日本国内では三万円弱ほどで販売されているが、それだけの価値は十分に備えている。



ただ、問題となるのが使用に際して一定の多言語処理の知識が必要になることである。

繁体字版Windows専用マシンを持っていない、また、

Windows 2000/XPの言語切り替えがわからない、というような人は、手を出さない方が無難である。



ところで、2.0版の開発には、1.0版を開発した書同文社は参画していないという。

書同文の『四庫全書』『四部叢刊』CD-ROMの多言語・多漢字対応は、完成度が非常に高いが、

2.0版は旧世代のローカル規格である台湾Big5コード環境にしか対応しておらず、

どうしても見劣りしてしまう。最新のUnicode規格に定義される七万字以上の漢字

はこのような辞書製品でこそ活用されるべきものなのだから、次期バージョンでは是非とも多言語・

多漢字処理面での改善を進めてもらいたい。



また、用例・語釈の全文検索機能も、実装が難しいのはわかるが、実際に利用する立場からは、是非とも

実現してもらいたいものである。



なお、香港商務印書館からは、『現代漢語詞典』繁体版CD-ROMも発売されている。こちらも

動作環境等は『漢語大詞典』2.0版とほぼ同等である。