中国伝統劇解説/京劇『鎖麟嚢』

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登州の薛という豪商には湘霊というむすめがあり、周庭訓と許嫁であった。嫁入りの日、湘霊の母は鎖麟嚢に珠玉を入れて、早く子が授かるようにと贈った。嫁入り行列は途中にわか雨にあい、春秋亭に雨宿りした。しばらくして、もう一つの花かごが雨宿りにやってきたが、花嫁は悲しげに泣いていたため、湘霊は理由を尋ねさせた。その娘は趙守貞といい、盧氏に嫁ぐところであった。母は早くに亡くなり、老父と寄り添いあって生きてきたが、家が貧しく離ればなれになり、世話をする人がないことを考え、感極まって泣いていたのであった。湘霊は憐れんで、鎖麟嚢を贈ると、雨が上がったため、名も告げずに別れ出立した。

六年後、登州は洪水に見舞われ、周一家は離散した。湘霊は莱州に流れ着き、乳母の胡婆と出会う。その世話で、当地の富豪・盧氏の家に子守として雇われることになった。盧氏の子の天麟はよくなついた。ある日、湘霊が天麟と鞠を投げて遊んでいたところ、天麟が鞠を楼に投げ入れてしまい、湘霊に取りに行かせた。湘霊は楼に上って鞠を探すところ、刺繍の嚢が掛けてあった。それは春秋亭で贈った鎖麟嚢であり、湘霊は感極まって慟哭してしまう。天麟の母は趙守貞であり、鎖麟嚢の珠玉を元手に財をなし、恩を忘れないために楼に掛けていたのであった。趙守貞は事情を問いただして恩人であると知り、上客として歓待した。まもなく、湘霊の夫・子も見つかり、一家は団円、湘霊と守貞は姉妹のちぎりを結ぶ。

  • 程硯秋の代表作。