北京における烤鴨の老舗といえば、掛爐の全聚徳と悶爐の便宜坊が双璧である。いずれもなかなかに美味なのであるが、しかし、全聚徳は分店が増えすぎ、しかも店による味のばらつきも大きく、筆者は「いまさら」の感を懐いてしまう。便宜坊もアヒルは美味であるのだが、伝統的なだけにやや脂っこすぎる嫌いがあり、前菜・炒菜の質も今ひとつである。
昨今、北京で人気を集めている烤鴨専門店が鴨王である。長富宮のとなり、海淀南路など、北京市内に五~六店舗を展開している。
鴨王のアヒルは独特である。比較的脂身の少ないアヒルを使い、香ばしくあっさりと仕上げている。このため、全聚徳や便宜坊のアヒルが一度食べると脂っこさにしばらく食べたくなくなるのとは異なり、二三日連続で食べても飽きない。荷葉餅はやや薄めだが、香ばしくて美味い。
鴨王のもう一つの特色は、烤鴨以外の料理が広東料理を主とすることである。あっさりした広東料理と烤鴨の組み合わせは、日本人には嬉しい。
前菜には、潮州風味の「鹵水大腸」「鹵水拼盤」の類と野菜を一つ二つ注文し、肉や野菜の炒め物を二三注文すれば十分であろう。
食べた料理
- 腰果鶏丁:塩味であっさり、品がよい
- 香菠咕咾肉:酸味がやや強いが、甘すぎず美味
- 香辣鴨肝:醤油系のやや濃いめの味付け。アヒルレバーのスライスと、タマネギ、ピーマンを炒め合わせる。レバーのねっとりした甘みに、ピリ辛風味がマッチして酒の肴によい。
- 鹵水大腸:典型的な潮州風味の前菜だが、臭みは全くなく、酒のツマミに好適。