2004-05-28

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長安大戯院夜戯
鎖麟嚢
  • 中国京劇院張火丁芸戯劇工作室+三団
  • 張火丁

さて、張火丁の十八番、程派名劇の鎖麟嚢です。彼女のこれを見るのは、六七年ぶり三度目じゃないかな。

彼女の声ですが、以前よりも低音が厚くなったように感じました。低音のピアニッシモの、真綿で心臓をくるまれて引っこ抜かれるような響きは、より一層磨きがかかってました。ダイナミックレンジの広さも相変わらず。

身のこなしですが、昔ほど背中を丸めなくなったんじゃないかな。アレは、昔の男旦、特に長身揃いだった程派の方々が背を低く見せるためのモノであって坤旦がやる必要は無い、という意見が強いようですが、しかし、胸を張って演じるよりもずっと青衣や閨門旦の雰囲気が出ていたのは確かです。

水袖も相変わらずきれいにまとめますねえ。一二カ所、ちょっと乱れたところもありましたが、全体としてホント、絵になってました。ただ行けないのが長安大戯院、シート席一列目だと、前の茶席の頭と舞台前の花が邪魔で、朱楼に登って鎖麟嚢を見る、座って水袖を伸ばす一番の見せ場がよく見えなかったぞ。相変わらず、地下のスポーツジムのバーベルの音なのかなあ、どしんという音も数回響いたし、音響も最悪だし、あのひどい劇場が伝統劇の殿堂であるというのは、本当に不幸なことだと思いますね。

さて、その外では李崇善が出ていました。が、流石に衰えましたねえ。拍手もまばら、聴かせることはできませんでした。

それにしても、今日の観客のノリは異常でした。みんな拍手したくてうずうずしてて、タイミングより早く拍手が入っちゃうほど。舞台も、衣装を換えて登場する毎に「好」だし。極めつけは、シメの西皮快板、なんと、手拍子が入りました。様板戯ならともかく、老戯で手拍子って……絶句。要するに、火丁はスター、というかアイドルなのねえ、今や。後ろの方の安い席から好を飛ばす若者もかなり居たし(もしかすると戯校の学生かもしれないけど)、花束を持って舞台を駆け上がるのも三四人、まあ、新たなコアな観客層が多少なりとも育っているってことでしょう。

ともあれ、今回こちらに来て初めて、ジンと痺れる上演でした。満足。

ところで、火丁、まえより頬のあたりがふくよかになったような?片子の具合でそう見えただけかな?