雑文/中国株ブームの欺瞞

Top / 雑文 / 中国株ブームの欺瞞

何で中国株ブーム?

近頃、中国株がブームだという。新聞・雑誌・テレビ……さまざまなメディアが特集記事を掲載し、ポータルサイトには中国株投資を進める広告が目につく。正気か?経済の専門かならずとも、多少なりとも現代中国に興味を持ち、中国メディアを斜め読みしている人であれば、そう思うはずである。

簡単な理屈だ。豊富な情報が収集可能である日本国内の株式やベンチャーに投資する眼力すらない人が、コトバもわからず情報開示も進んでいない他国の株式に投資して成功するハズがない。

日本語翻訳ニュースがあるので大丈夫、と思うかも知れない。しかし、中国にはそもそも報道の自由など無い。中国マスコミは共産党に奉仕するのが使命であり、良いところを報じ、悪いところを報じないよう、義務づけられているのである。中国情報配信を売りにするサイトもあるにはあるが、しかし情報の量はやはり少ないし、掲載記事から見るにスタッフの質(学識・教養)が高いとはとても思えない。そもそも、その手のサイトは、マスメディアとしての自覚など無く、商業主義でやっているのだから、中国株ブームに不利になる情報を積極的に流すはずも無い。

このような原則論は、特に中国語ができなくても、冷静に考えればわかりそうなモノである。しかし、マスコミが煽る中国株ブームや、中国の成長イメージに惑わされ、実体を見極めずに投資してしまう人が多い。まったくもって、お人好しとしか言いようがない。

さらに、中国はしばしば「人治主義」といわれるように、法やルールよりも人間関係の方を重視する傾向が強い。数千年にわたる中央集権の法治主義が、そのような行動・思考パターンを深く植え付けてしまい、それが未だに解消できていないわけである。中国企業の多くも、そのようなパターンに則って行動している。それを、中国文化理解が不十分な初心者に読めるはずなどない。だいたい、日本人が中国理解の基盤としがちな儒教や春秋思想などというものは、所詮は貴族・士大夫の思想であり、そのような学問的エリート層が力を持たない現在の中国を理解する道具には不適切なのである。むしろ、『水滸伝』のヒーロー達の行動理論の理不尽さにこそ、学ばなくてはならない。

つまり、中国株ブームも日中相互不理解の一つのあらわれにほかならない。日本人は、芥川がそうであったように、理想のイメージのバーチャル中国と現実の中国、そのギャップにぶつかるたびに中国を蔑視し忌み嫌うようになる。現在も、また同じようなことが繰り返されようとしている。アジア文化圏の連帯感を持つのは結構なことだ。しかし相互理解は、相互の差異を認めあうところからはじめるしかない。その出発点に、日中両国民ともに未だに立てていないのである。

そもそも上がっていない中国株

Yahoo!中国から、上海A株の過去五年の価格推移である。

http://chart.yahoo.com/c/5y/_/_ssea.gif

乱高下しているだけ、上がっていない。同じく上海B。

http://chart.yahoo.com/c/5y/_/_sseb.gif

落ちていく一方。深圳A

http://chart.yahoo.com/c/5y/_/_szsa.gif

深圳B

http://chart.yahoo.com/c/5y/_/_szsb.gif

このように、中国の株価は、ここ二三年、ほとんど上がっていないどころか、全体としては下落傾向なのである。

人口十三億の中国市場の成長という夢もしばしば語られる。しかし、現在の中国は腐敗問題が予断を許さないところにまで進んでしまっている。地方の政治を牛耳り犯罪にまで手を染めていた、地方政府・警察・ヤクザ・企業の利益共同体の摘発はあとを断たない。比較的監視が厳しいはずの北京市内の公共事業でさえ、ブローカーの中間搾取によって出稼ぎ農民が賃金未払いのまま労働を強制されるという問題が頻発している。このような状況下では、富の一極集中が進むばかりで、全人民の生活レベルの向上には結びつかないのである。

また、中国企業にも大いに問題がある。まず、情報公開がまだまだ不十分である。遵法意識が希薄な経営者が多い上に、関連法規や企業監視システムもまだまだ未整備であるから、何が起こるかわからない。 経営戦略的にも、一つの企業がある分野で成功を収めると、みな一斉に二匹目のドジョウを狙って参入してしまう。このため、小さなパイの奪い合いが常に発生し、デフレ・不採算化・赤字という悪循環に陥ることになる。この目先の利益の過度の追求という姿勢は、製造業の研究投資の少なさにもあらわれている。多くの企業が、本行の技術的深化を目指さずに、多角化による目先の金儲けに走ってしまうのだ。

企業のモラルも問題だ。代表的電器メーカー、ハイアールさえも、企業幹部=地方共産党幹部による企業資産の独占疑惑を香港の研究者に追求されているありさまである。株式上場益のみを目指したベンチャー企業も多いと聞く。 このままでは、しばらく前、東南アジア諸国に関してよく言われた「開発独裁」の壁に、中国も早晩ぶち当たるのは目に見えている。

このような実情を些かなりとも知っていれば、とても中国株に投資する気など起こるまい。少なくとも私は、中国株を買っているという中国学研究者には、ついぞ出会ったことがない。

変わらなきゃ

竹のカーテンの昔ならともかく、中国が世界経済の重要なメンバーになった現在、中国には安定してもらわないと、日本も世界も困るのである。そのためには、中国に変わってもらわないといけないし、日本はそれを助言し手助けしていかないといけない。それにはまず、お互いの実情を理解し合い、それはそれとして受け入れ、その上で相手の助言に耳を傾ける度量を持たなくてはならない(困ったことに、両国ともに外交問題によって国内の不満をそらそうという政治家がいて、本当の相互理解にまで進めないのだが)。

中国株を購入するのは、そのような環境が整ってからでも遅くはなかろう。

どうしても中国企業株がほしいのであれば、NASDAQの中国概念株にしておいた方が、まだしも安心できると思うが、いかがであろうか?